あなたがいなければ。【短編小説】
「呼んでよ。慧里奈。俺のあだ名。」
みっ耳!
近い!
「いやっ!」
「なーんだ。つまんないのー。」
「…」
「でも良かった。」
「何が?」
「1人で抱え込まなくて、思い出してくれて。」
「うん。ボソッ自分の気持ちが分かったから。」
「ん?なんか言った?自分のなんだかって。」
「何にも言ってないよ?」
「マジ?空耳かな?確かに聞こえたはずなんだけど…」
「気のせいだよ!」
「そっか…。自分の気持ちが分かったからって聞こえたんだけど?」
バッチシ聞こえてるじゃん!
「気のせいだよ…。」
「じゃあ、慧里奈だったらその後なんて言う?」
「は?」
「だから、自分の気持ちが分かったからの後なんて言う?」
「まずそんな事言わない。」
「俺なら言えるよ。」
「…。なんて?」
シーン。
何この空気。
嫌な空気。
「俺は…」
ゴクン
「自分の気持ち。小さい頃から知ってた。」
あぁ。
小さい頃、好きな子いたんだ。
ズキッ
痛いよ。
心が…。
「好きなんだ。その子が…。その子は、何でも独りで抱え込む子。誰にも頼らないで自分ひとりでがんばろうとする子なんだ。」
「…」
聞きたくない。
やっと想いを伝えようと思ってたのに…
「俺は好きだ。可愛くて、ドジなのに、勉強も運動も出来るその子が…」
「止めて!聞きたくない!」
「聞けよ!最後までちゃんと。」
「嫌!」
「俺は、小さい頃から好きなのは、お前だけだから」
「…え?」
マジで?
「だから俺は、お前だけしか好きじゃない」
「…」
なんて言おう?
私も好き?
「慧里奈。」
「はっはい!」
「敬語。で?」
「で?」
「だから返事…やっぱいいや。いらない。俺が伝えたかっただけだから。」
「…」
「ごめん。」
「私にも言わせて!」「…何を?」
「いいから。」
「分かった。」
私の気持ちを伝えよう。
今。
全部を。
端から端まで…。