あなたがいなければ。【短編小説】

「お兄様。荷物ありがとうございます。後は自分で持って行きます。」
「様付けするな。」
「でも本家では兄妹にも様は付けなさいとお父様が言っていました。」
「俺らは“兄妹”じゃないだろ?」
「ですが、戸籍上兄妹です。」
「あいかわらず頭がきくな。その頭をこれからの恋愛に使って欲しいものだ。」
「…。」
「なぁ。慧里奈。」
「…はい。」
「ふっ。なら俺はこれで部屋に戻る。じゃあな。」
「はい。」

ガチャ

「はぁ。」

ため息なんて幸せが逃げるだけ。

いや。
もうとっくに逃げてるか…。


カチャ

ベランダに出て、空気を吸う。

「すぅ。ふぅーー。」

ここから見える景色は、憎いほど綺麗。

私の心と正反対。

「私と違う。」


独りになると、泣きたくなる。


「晃君。何してるかな?里奈にもひどいことしたなぁ。」

寂しい。

そうだ。

「お父様に会いに行かなきゃ。」

帰ってきた事を知らせなきゃ。

慌てて部屋を出る。



コンコンコン

父「誰だ。」
「慧里奈です。」
「慧里奈!?入れ!」
「はい。失礼します。」


「どうして帰ってきた?」
「お兄様に連れ戻されました。」
「智彦にか?」
「はい。」
「バレたのか。」
「…」
「なぜ分かったんだ?」
「仲間がいるようです。」
「ほぅ。仲間か。」
「…」
「分かった。智彦にはそれなりの処分を与えよう。」
「何故です!?私でも良いじゃないですか!」
「慧里奈には神崎の名をついでもらわなきゃいかん。」
「お兄様がいるのにですか!?」
「智彦は慧里奈より、神崎の名を汚した。」
「そんなっ!」
「すべての元凶は、智彦だろう。」
「違います!私です!私が…」


そうだよ。
私がいけないんだ。
お兄様を…

殺そうとしたから…。






あれは、私が7歳の頃。
お兄様は、まだ中学生だった頃。

『慧里奈!』
『はい。何でしょうお兄様。』
『包帯を付けてくれ!』
『ですが、朋樹様にやってもらった方が早いのでは?』
『いいんだ。慧里奈がいい。』

思えばこの時から狂って来ていたんだ。私達の関係は…。

それから毎日のように怪我して帰って来たお兄様。
でも、しばらくたったあの日は違った。

『慧里奈!』
『何ですか?また怪我ですか?』
『違うよ~!』
『では、何ですか?』
『慧里奈だけに教えてあげる!ちょっと耳貸して!』
『はい。』
少しずつ耳を近付ける。
< 28 / 58 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop