ぽんぽんぼん
「わ、わわ私、帰ります!では!」
定まらない視点で、それだけ言うと梶木君に背を向けて、ドアへと駆け出す。
「気を付けて」
優しい梶木君のそんな言葉を背に受けて。
梶木君の家から自分の家まで走り続ける勢いで駆けていたが、普段から運動をしていない私はあっさりと途中で足を止めた。
はぁ、はぁ…と耳に響く荒い息使い。
やたらと速い脈は走ったせい…だけじゃない。
顔が熱いのは運動をしたせい…なんかじゃない。
胸がギュッて痛いのも、私以外の人にキスとかしないでとか思うのも。
全部、全部、……梶木君のせい。
何で梶木君があんなことしたのかなんて、私、馬鹿だから分からないし。
好きな人からのキスに驚き80%に、嬉しさ20%位の割合だった気もするけど。
それでも、……梶木君を独り占めしたいって思っちゃったよ。
はるるんが言ってた付き合いたいっていう気持ちは、独り占めしたいっていう気持ちなんだ。
息が整ってくると、止めていた足をゆっくりと動かし歩を進めていく。
息は整っても、心拍数は速いまま。
空を見上げると、夕日で赤く染まった空が広がっている。多分私の顔と同じ色。
自分の唇に人差し指を当て一人呟く。
「私、梶木君と付き合いたいな……」
その言葉が生暖かい風に溶けていく。
まあ、でも私、梶木君と付き合える可能性は低いんだよね。
そう思って苦笑すると、歩くスピードを少しだけ速めた。