ぽんぽんぼん



朧気な記憶の中で唯一覚えているのは、海の「お姉ちゃーん!帰るよ!」の言葉が聞こえた瞬間、その言葉に身を任せて彼女の側から逃げる様に立ち去った気がするって位だ。


失礼…な態度だったと思う。


それでも、何度あの場に出くわしても多分その行動しか出来ないとも思う。



図書館の中に入ると、迷うことなくカウンターへと歩を進めて行く。


本当は行きたくないからか、それともこれ以上何かを知るのが怖いからなのか、心拍数は異様に速い。


カウンターで貸し出し作業をしている女性の前まで行くと一度奥歯をグッと噛み締めてから口を開いた。



「すみません。5年前の一昨日と昨日と今日の日付の新聞が閲覧したいんですが…。あっ、出来ればこの地域密着型の新聞がいいです」


「かしこまりました。少々お待ち下さいませ」



そう言って、手元のパソコンで私の言ったものに当てはまる新聞を探しているらしい。


少しすると、彼女がパソコンから顔を上げ私へと視線を向ける。



「すみません。5年前となりますと、この図書館に現物はないのですがPCで閲覧可能な電子版でよろしければございますが?」


「電子版で大丈夫です」



電子版であったって問題ない。


だって、私が見たいのは記事の内容だから。



こちらでと案内されたパソコンが置かれている席へと座ると、後は対応してくれている女性が全部してくれる。


少し待てば画面に映し出される新聞記事。


ごゆっくり。とだけ言うと彼女はまたカウンターへと戻って行った。


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