ぽんぽんぼん
「その時にハッキリ気付いたよ。自分はばあちゃんが生きてるいると思い続けていたって」
「じゃあ、…何で……」
そこまで口にした時、梶木君の顔が私の方へ向く。
その表情は眉がハの字に下がり、何とも言えない寂しそうな、辛そうな表情で。
私の言葉はそこで止まってしまう。
「何でその時に言わなかったのか…でしょ。……そんなの無理だよ。僕は、もう引き返せない所まで来てたんだよ」
引き返せない所……。
その言葉が凄く重く感じる。
「僕がばあちゃんがもうこの世に居ないっていうのに気付いたのを誰かに言ったら、ばあちゃんが居ないっていうのが決まっちゃう。
そうしたら、ばあちゃんの事を皆が忘れてしまう気がするんだ。……勿論僕だって。……そう思いだしたら、…もう言えない」
最後の言葉を放つと共に視線を落とす梶木君。
辛そうで、見ている私まで辛くなる。
多分、梶木君は記憶の風化を恐れているんだろう。
記憶は時間と共に薄れていくものだから。
でも、梶木君。
色濃く残る記憶もあるんだよ。
何年経ったとしても、薄れる事の無い記憶っていうのはあるんだ。
「梶木君が本当の事を言ったとしても、誰も梶木君のおばあちゃんの事を忘れないよ!」
そう大きな声で叫ぶ私に向けられたのは、睨み付ける様な鋭い目だ。