ぽんぽんぼん
変だと感じた瞬間に、新しい話を作ってしまう様に、辻褄合わせのばあちゃんの行動を勝手に考えて思い込む。
それを何回も繰り返した。
もう、戻れない。そう心の何処かで思っていたのかもしれない。
そんな中で転機が訪れたのは、高校に入学してからだ。
夏休みももうすぐというくらいに、同じクラスで気が合う山田と二人で廊下を歩いていた時だった。
突然トンッと背中を誰かに叩かれたんだ。
足を止めて後ろを振り返れば、そこには見た事もない女子がいて。
「あの!お名前は!?」
キラキラと目を輝かせてそう聞いてくる女子に思わず呆然としてしまった。
「あっ!私は森山泉です!で、お名前は!?」
「…………」
僕が何も答えなかったのが、自分の名前を言っていなかったからだとでも思ったのか、煩い程の声でそう自分の名前を言ってくる彼女に声も出ない。
「で、お名前は!?」
無言の僕にグイッと顔を近付けて、再び聞かれるその質問。
ハッキリ言って、変人に絡まれたと思った。
でも、彼女からふんわりと香る甘い匂いにつられて思わず口を開いたんだ。
「梶木…、颯太だけど。何?」
つい名前を言ってしまったけど、相手が変人だと思っていたから、口調は冷たかったと思う。
まあ、いきなり名前を聞かれたらそうなる人が殆どだと思うけど。
それでも彼女はニカッと歯を見せて笑って、
「梶木君ですね!」
嬉しそうにそう言ったんだ。
僕の名前が聞けて本当に嬉しいっていうその顔に少しだけ、本の少しだけ目を惹かれたのは、気のせいではなかったと思う。