ぽんぽんぼん
人間の記憶力は完璧じゃないから。
記憶は風化していくものだから。
……………ーーーーー
そのままの状態で時間だけが過ぎて、今日に至る。
でも、とうとう今日、森山さんに言われてしまったんだ。
「ほんと、……ムカつく」
そう呟きながら、自分の家の玄関の戸を開けた。
母さんはまだ帰ってきてないらしくて、今この家にいるのは僕だけだ。
森山さんに、
「そろそろ行動、……起こしてみるよ」
と宣言して来たのはついさっき。
それに「梶木君なら大丈夫だよ」と言う森山さんの微笑んだ顔に、心臓が大きな音をたてたのもついさっき。
森山さんには、ムカつくけど嘘なんて吐きたくない。
嘘吐きの格好悪い奴だと思われたくない。
だから、重い足をばあちゃんの部屋へと動かしていく。
少しだけ開いているガラス障子の間にスルリと身体を滑らせて中へと踏み込む。
誰も居ない静かな空間。
でも、ばあちゃんのお気に入りだった丸いちゃぶ台の上には、小皿に入っているぽん菓子と、お茶が入っている湯呑みが置かれている。
今朝、僕が置いたものだ。
その横を通り過ぎて、仏壇が置かれているのとは反対側の端に置かれている桐箪笥の前へと歩を進める。
この桐箪笥には、ばあちゃんが大事にしていた着物が仕舞われている。
5段ある引き出しの上から2段目の取っ手であるかんへと手を掛けると、ゆっくりとそれを引く。
それと同時に目に映るのは、真っ白な着物を包んでいるたとう紙。
ドキドキと大きな音が頭に響く。
自棄に心拍数が速い。