ぽんぽんぼん
右手の甲で一気にグイッと目を擦ると、ズズッと鼻を啜る。
開いた目に映るのは、じいちゃんとばあちゃんの笑った顔。
今日から少しづつ前に進むから、そこで僕のこと見といてよ。
そう心の中で呟いた時、ガラッという玄関の戸が開く音と共に、
「ただいまー」
元気の良い母さんの声が聞こえた。
その声を合図に膝を立てると、ゆっくりと立ち上がる。
「颯太?ここに居るの?」
そう言いながら、ガラス障子からひょこっと顔を覗かせる母さん。
少しだけ首を傾げている母さんの顔を見て口を開いた。
「うん。ちょっと、ばあちゃんの遺影を置いてたんだ」
「えっ!」
僕の言葉に目を見開いて驚いた後、母さんの目が今さっき置いたばあちゃんの遺影へと向けられる。
母さんは、そのまま固まってしまった様に動かない。
「ばあちゃん、良い顔してるね」
再びばあちゃんの遺影を見ると、思わずばあちゃんの微笑みにつられた。
「そ、…そ…うた?」
やっと聞こえてきた母さんの声は震えていて、切れ切れで。
それ程までに、僕のこの行動に驚いているんだろう。
「あのさ、母さん」
母さんの目をじっと見つめると、母さんがゴクッと息を呑むのが分かる。
張りつめた空気が漂う。
母さんの顔は不安で歪んでいる気もする。
母さんにこんな顔をさせるのは、もう今日で最後にするから。
そう思ってギュッと手を握り締めると、声を出す。
「お盆のお墓参り。……今年は僕も一緒に行くよ」