ぽんぽんぼん
「ふーん。私には理解出来ない次元だわ」
はるるんが苦笑いを漏らした時、教室のドアがガラッと音をたてて開いた。
ドアから教室へと入って来たのは、ズボンのポケットに手を突っ込んでやる気のなさそうな顔をしてだらだらと歩く男子。
彼こそが、私が心待ちにしていた梶木颯太君だ。
「あっ、来たっ!」
声を弾ませて席を立つと、はるるんからの適当な
「いってらっさーい」が聞こえる。
もう日課的なものになりつつあるのだ。
「梶木くーん!!」
そう叫んで彼へと駆け寄ると、迷惑そうな何ともいえない顔をされる。
彼に近付くだけでふわっと香るこの匂い。
甘い!
鼻をクンクンとひくつかせる私に向けられる白い目。梶木君から向けられているのは明白だ。
「森山さん、ほんと毎朝飽きないね」
「飽きる事なんて無いと思う!凄いでしょ?」
重低音を奏でるテノールボイスを響かせ呆れ気味の口調でそう言われれば、にかっと歯を見せて笑う。
そこに盛大な溜め息を落とす梶木君。
「うん。凄い鬱陶しいね」
「そんな事言わんで下さいな、梶木君」
「言われない様にして下さい、森山さん」
「それは、無理だわぁ」
「直ぐに諦めないでよ」
こんな会話を毎日しながら、梶木君が自分の席へと歩いて行くのをひっつき虫の如く付いて行かないと私の一日は始まらないと言っても過言ではない。