ぽんぽんぼん
「もう、絶対に貸さないから安心して」
「何で!?」
「変態に貸すハンカチなんて無いね」
「えぇぇぇぇえ!じゃあ、このハンカチは!?」
さっきまでは返そうと思っていたのだが、手に持っているハンカチを握る手にグッと力を入れる。
それが功を奏したのか、
「返して」
淡々とそう口にしてハンカチをグイッと引っ張る梶木君の手には簡単にハンカチがいかない。
逆に私がグイッと引っ張ると、ハンカチの先を掴んでいた梶木君が机の上に前のめりになる。
と、同時に私へ突き刺さる冷たい視線。
それでもこの場は退いたら駄目な気がする。
「嫌です!」
「何で!?」
意地になっている私に苛立っているのか梶木君も声を荒げる。
折角優しい梶木君だったのに、もうそんな梶木君はいないみたいだ。
失敗した。
そんなのは分かってるんだけど、
「梶木君の匂いがする物を毎日貸して貰えるなら返すけど、そうじゃないなら返さない!」
そんな言葉が勢いで自然と口から漏れ出たのは、梶木君が一旦このハンカチをくれるって言ってくれた事からくる反動なのかもしれない。
当然、ムッと口をへの字に曲げる梶木君は不機嫌だ。
「何それ、脅すつもり?森山さんごときが僕を?」
めちゃくちゃ見下されてるよ、私。
いや、知ってたけども。
それでも「だって、だって……」と、口をもごもごさせながら言う私は、理由も無しに駄々を捏ねている赤ん坊と同じなのかもしれない。