ぽんぽんぼん
「そのハンカチから僕の匂いはもうしないけど」
「そうだけど…」
梶木君の言ってる事は間違って無い。このハンカチからは、もう梶木君の匂いがしないのだって私が言ったんだから分かってる。
でも、何て言ったら良いのか分からない気持ちが胸にあるんだ。
駄々を捏ねている私に向かって呆れ顔で溜め息を吐くと、
「だったら」
と諭す言葉を吐く彼。
と、同時に私の口から言葉が漏れ出ていく。
「そうなんだけど、何か分からないけど、梶木君の物を持っていたいって思うんだもん!」
口をついて出たその言葉は、今の私の気持ちそのもので。
言ってしまったと気付いた瞬間、かぁっと熱くなる顔とキョロキョロとさ迷う視線は、間違いなく恥ずかしさからだ。
動かす視界の端に映る目の前の彼は、私のそんな様子を見ても顔色一つ変えていない。
「…………」
「…………」
無言の時間が居たたまれない。
結果、
「あー、…ド変態ですいません。やっぱ返します」
へらっと笑って自分の方へ引き寄せていた梶木君のハンカチを再び差し出した。
本当は持っていたいけど、さっきの私の発言は本気の変態発言な気がするし…。
なのに、さっきまでは返してと言って引っ張っていた梶木君の手はハンカチへとやって来ない。
そればかりか、気の抜けた様な溜め息を吐かれる始末。
「そんなに持ってたいんなら、別に持ってて良いよ」
差し出しているハンカチをチラッと見たものの、私へと目を戻しながら彼が口にしたその言葉に、何で!?と聞き返しそうになった口を慌てて閉じた。