私が恋した男(旧題：ナツコイ～海男と都会男～)
「荒木編集長って四つ葉では見ないですけど、プライベートでは会えるんですか？」

　私の言葉に３人は顔を見合す。

「俺たちだって会えるときと会えないときはあるよ。俺なんて２か月ぶりに会ったかな」

　高坂専務は腕を組みながら笑っている。

「アイツはツチノコだしな」
「確かに。でも仁はやるべきことはやっているし、実力は俺たちよりも格段と上だから尊敬しちゃうよ」
「だな。俺たちよりも先に編集長になったのって、アイツだし」

　さっきまで顔が紅潮していたはずなのに、荒木編集長のことを話す水瀬編集長と姫川編集長は真剣で相手のことを尊敬しているのが分かる。

　水瀬編集長と姫川編集長は実際に仕事を通してその凄さを実感しているけれど、それよりも上だと言われている荒木編集長とは絡み自体が少ないから、どんな仕事ぶりなのか気になっちゃうかも。

　いつか絡むことがあったら、どんなふうに仕事をしているのか見てみたいなぁ。

　４人で四つ葉の話やプライベートの話をして盛り上がっている中で、姫川編集長は喫煙をするために先に外に出て行き、高坂専務はお手洗いのために席を外している。

「ねぇ、九条」
「何ですか？」
「姫川ね、本当は青木印刷所の帰りに俺たちと合流する筈だったのに断ったんだよ。何でかな～と思ったけど、２人がここで飲んでいるのを見て、断った理由はそうだったんだって思った」

　隣に座る水瀬編集長がにやにやしながら、この場にいない姫川編集長のことを話しだしてたら、お店のドアが開いて姫川編集長が戻ってきたので、私はじぃっと姫川編集長の顔を見る。

「何だ？どうした？」
「いえ…、何でもないです」
「何でもないよ」

　水瀬編集長はすました感じでジョッキに口を付けて飲み始め、私はお皿に残っている料理を口に含んだ。

　私だっててっきり青木印刷からそのまま直接帰っていたんだと思ったし、まさか四つ葉のロビーの喫煙所にいるとは思わなかったもの。

　さっきの水瀬編集長の話が本当なら飲み会を断って私との食事を優先したとなる…、それってどうして？と考えてちゃって料理の味が分からなくなる。
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