私が恋した男(旧題:ナツコイ~海男と都会男~)
「あー、海が見えてきた!」
「どこどこ?」
「ほら、彼処に空よりも濃い藍色になってる場所があるじゃん」

 同僚たちは窓から見える景色に興奮していて、私も同じように景色をみると、朝陽に照らされた海はキラキラと光っている。

 前に海斗さんと一緒に見た夜の海も月の光で綺麗だったけれど、朝陽もまた綺麗だな。

「綺麗」
「……」

 私は小声で呟くと、助手席に座る姫川編集長とミラー越しに目が合って、姫川編集長は黙ったまま真っ直ぐ私を見つめてくる。

 姫川編集長の獲物を捕らえるような視線が鋭く、私はそれを反らすことが出来なくて、皆は外に見える景色に夢中になっているから私と姫川編集長のことには気付いてない。

 どうしてそんなに見つめてくるんですか?って言えたら楽なのに、声に出せないでいた。

「もうすぐ目的地に到着だね」
「ちっ…」

 水瀬編集長が言うと姫川編集長は舌打ちして視線を外し、それにほっとして小さく溜め息をふぅっと吐く。

 やがて私たちが乗るワゴンは海の家が密集している場所に着いて、いよいよ取材と撮影が始まろうとしていて、不謹慎ながら海斗さんに会えるかな?と淡い期待をしながら車から降りた。

 撮影に使う海の家に向かうと、建設していた海の家はほぼ完成に近づいていて、屋根は青色で壁は白く、内装は流木などで作られた机や丸太で出来た椅子などが置かれている。

「水瀬、モデルは来てるのか?」
「もうすぐ来るってさ。滅多にこない場所だから迷ってるのかもしれないし、俺はちょっと外で連絡を取りながら駐車場へ行ってくるよ」
「分かった」

 水瀬編集長は外へ行き、私たちは先に取材を行おうと海の家のオーナーである男性の元に行った。
< 111 / 161 >

この作品をシェア

pagetop