私が恋した男(旧題:ナツコイ~海男と都会男~)
「お前も笑ってないで、さっさと取材を始めろ」
「分かってます。早速ですが、この宇ノ島に海の家を始めるきっかけから伺えますか?」
「生まれた場所がここ(宇ノ島)ですから学校を卒業してもここで暮らすと決めていたんで、自分では何が出来るかと考えた結果、海の家にしたんです。昨年までは他の家で修行させてもらって、今年から自分で持つようになったんですよ」

 高崎さんの話を取りこぼさないように、相槌を打ちながらメモ帳に書いていく。

「この宇ノ島が好きなんですね。先日ここの海で獲れた魚を召し上がったのですが、都内で食べる魚よりも鮮度が抜群で、魚の身もふっくらと弾力があってとても美味しいです」
「ありがとうございます。ここは海も山もあって自然にとても恵まれているので、俺も岳も学校の帰りには釣りをしたり山菜を獲ったこともあるんですよ。地元で獲れたものをお客さんに食べてもらえるのって嬉しいですし、この場所が好きになってくれたらもっと良いなと思っています」

 高崎さんの言葉はこの宇ノ島がどれだけ好きなのかと伝わり、私も何度もここに足を運ぶごとに好きになってきているから気持ちがとても解る。

 取材は順調に進み、持ってきたメモ帳のページは9割ほど文字で埋まり、編集部に戻ったらこれを読者に読みやすいように文字起こしをしなくちゃ。

 注目をして欲しい個所には赤ペンでラインを引いて、写真を載せたいと思う箇所には付箋で目立つようにページの上の部分に張り付ける。 

「そろそろ水瀬の所も撮影が終わるな。今のうちに海の家で出す料理を頼め。アルコール無しのドリンクを3つと簡単につまめるものを2つでいい。純、厨房の案内を頼む」
「オッケー」
「九条、俺のカメラを貸すから調理中の写真を撮ってこい」

 姫川編集長からホラっと一眼カメラを渡されたんだけど、こんな立派なカメラを私に託して上手に撮れるかな?

「写真がブレてたら、1枚につき2000円よこせ」
「絶対にブレた写真は撮りませんから!」

 相変わらずむっかつく!!絶対に綺麗に撮るんだから!!フンっと鼻息を荒くしながら、高崎さんと厨房に向かった。
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