私が恋した男(旧題:ナツコイ~海男と都会男~)
「海斗、魚を焼くときの火加減はこのくらい?」
「この魚は火の通りが早いから、網の高さを調整してこのくらいの火の大きさで大丈夫だ」
「成る程。真っ黒な焼き魚は出せないから、焼くときは風の向きにも気をつけておくよ」
「こっちの果物のカットは終わったよー」

 女性スタッフたちも下準備で忙しそうにしているけれど、どのスタッフたちの顔はとても充実していて、こういう雰囲気って大事だよね。

 ここの人たちがいるからこそ宇ノ島の魅力が引き立っていて、その逆のもあって、宇ノ島という地域だけじゃなくてここにいる人たちのことも季刊に書きたいな。

 姫川編集長から借りた一眼カメラでその表情をそっと撮影し、今は撮影に集中しないといけないけれど、この魅力を早く原稿に反映させたい。 

「海斗、ちょっといい?」
「何ですか?」

 高崎さんに呼ばれた海斗さんが振り向くと、私の姿を見て海斗さんはハッと目を見開き、私は小さくお辞儀をした。

「お邪魔します」
「岳が撮影に使いたい料理をお願いしたいって。アルコール無しのドリンクを3つ、おつまみ2つね。九条さんがカメラで作っているところを撮影したいから、後は海斗に任すよ」
 
 高崎さんが私の両肩に手を置いて、はいっと私を海斗さんの前に押し出して厨房から出ていった。

 えっ、ちょっと、海斗さんの了承なしに前に出されても困っちゃうんだけどな。

「えっと、その…、また来てすいません。邪魔にならないようにします」
「勝手にすれば」

 海斗さんは私の横を通り過ぎながらそう言い、大きな冷蔵庫を開けて中から魚と肉を取り出して流し台に向かうと、私の方に振り向いた。

「撮影するのか、しないのか、どっちだ」
「します!」

 慌てて一眼カメラの画面を覗きこんで、海斗さんの料理をしている姿を写し始めた。
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