私が恋した男(旧題:ナツコイ~海男と都会男~)
「あの…、インタビューとは関係ないのですが、旦那さんがなかなか帰ってこないと寂しくはないんですか?」
「どうしたの?急に?」
「あっ、すいません。えっと…、漁師ってなかなか帰ってこないから、その……」
「そうねぇ、寂しいと思う時はあるわよ。最初はよく喧嘩もしたけれど、この街の人たちによくしてもらっているからね。後は帰ってきたら離れていた分を甘えさせてもらうし、色々試しながら過ごしているわ」

 女性は穏やかな笑顔で話をしてくれて、きっと旦那さんのことも、この街で暮らすのも好きなんだなぁ。

 笑顔の裏にはきっと大変なことを経験しているけれど、それを1人じゃなくて2人で、周りの皆で乗り越えてきたのが言葉の優しから分かる。

「ありがとうございます、突然変なことを聞いちゃってすいませんでした」
「いいのよ、またいらっしゃいね」
「はい!」

 私は雑貨屋さんを後にして、海沿いの道路に出て定食ヨシハラの前から見える風景と人物のバランスを考えてシャッターを切ると、ヨシハラのお爺さんが定食の中から出てきた。

 そうだ、お爺さんの写真も欲しいな。

「ヨシハラのお爺さん、お久しぶりです。実は仕事でこの街を書いてるんですが、定食ヨシハラの前でお爺さんの写真を撮りたいんです」
「麻衣ちゃんの頼みだもん、断れないよ。かっこよく撮ってね」

 ヨシハラのお爺さんは茶目っ気たっぷりに、定食ヨシハラの前で撮影に応じてくれた。

「ヨシハラのお爺さん、ありがとうございます。雑誌が出来たらお爺さんの家に贈りますね」
「ありがとう。楽しみにしているよ。おぉ、海斗たちが乗っている船が戻ってきたようだね」

 ヨシハラのお爺さんが海を眺めたので、私も顔を海に向けると、水平線の奥に1隻の漁船が港に向けて進んでいるのが見えて、あの船に海斗さんが乗っているんだ。
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