私が恋した男(旧題:ナツコイ~海男と都会男~)
 お店の中はテーブル席が2つ、カウンター席のイスは4つと、こじんまりとした印象を受けた。

「へい、らっしゃい!」
「先日お電話しました、四つ葉出版社の姫川と申します。本日は宜しくお願いします」

 カウンターの内側に立っている頭に白いはちまきを巻いて青色の作務衣を着た男性が大きな声で挨拶をし、姫川編集長は鞄からから四角い箱を取り出して、そこから一枚の名刺を男性に渡した。

「初めまして、大守将司(おおもりまさし)と申します」

 大守さんという男性は姫川編集長から名刺を受け取ると笑顔でニカっと白い歯を見せ、こちらも自然とにこっとしちゃうのは、大守さんの笑顔はまるで向日葵みたいで、この笑顔でほっこりしちゃう人もいるんだろうなぁ。

「大守さん、こちらは同じ部署の九条です」
「九条麻衣です。どうぞよろしくお願いします」

 私も大守さんに名刺を渡してカウンター席に座ると、大守さんは私たちの前におしぼりと湯呑を2つずつ置いた。

「ご注文は何にしますか?」
「じゃあ、表にあった『魚定食』をお願いします」
「魚定食ですね。九条さんは何にします?」
「えっと…、じゃあ、『本日の定食』で」
「喜んで!」

 私たちの注文を受けると、大守さんは手際よく調理を始めた。

 私たちが座るカウンター席と大守さんが立つ調理場の間にはガラスケースがあり、そこには新鮮な野菜や魚介類が置かれている。

「どれも新鮮な野菜や魚介類ですね」
「そうでしょ?直接契約しているところに出向いて選んでいるんですよ」
「……」

 私はそのケースをじぃっと物珍しそうに見つめながら大守さんと話していると、姫川編集長はさっきから黙って大守さんの手つきを見ている。

 とても真剣な表情だし、あまり私から姫川編集長に話しかけちゃまずいのかなって思い、私は静かにお茶をすする。 

 大守さんは魚や野菜をケースから出すと包丁を手にとり、魚は綺麗にさばかれ、野菜はリズミカルに切られていく。

「へい、お待ちどうさま!!!」

 会話のきっかけを失いつつ、私たちの前に注文した『魚定食』と『本日の定食』が置かれた。

 『魚定食』は煮魚がメインで、ご飯にお味噌汁に漬物の小鉢がついている。

 そして私が注文した『本日の定食』は野菜炒めがメインで、あとは姫川編集長と同じセットがつく。
< 15 / 161 >

この作品をシェア

pagetop