私が恋した男(旧題:ナツコイ~海男と都会男~)
みんなの話に相づちを打ちながらカクテルを飲み続けていたら、なんだか気分が…。

「茜、ちょっとトイレに行ってもいい?」

茜に小声で言うと、茜がとても心配そうに私の顔を覗き込む。

「カクテル、強すぎた?」
「んー、いったん席外すね」

私は席を立ってトイレに向かい、用を終えると、お手洗いの鏡に映る自分の疲れ切った顔に苦笑する。

仕事が立て込んで至っているのもあるし、気乗りしていない合コンだから、きっと茜も私の表情に気付いているよね。

今度は茜と同級生の3人で美味しいケーキが食べれるお店に行って、女子トークをしようっと。

手を洗ってトイレから出ると、そこに合コンに参加している男性メンバーの1人が立っていた。

「この後、2人で抜け駆けしない?」
「えっ?」
「俺、気に入った。ねぇ、そうしない?」
「でも私は…」

私は好きな人がいるし、抜け駆けとかそんなのに興味はないし、そもそも合コンも代役で来ているわけで。

「ごめんなさい、好きな人がいて抜け駆けとかしません」
「そいつってどんな職業の奴?」
「えっと、漁師ですけど…」
「はっ、漁師かよ。医者の俺より全然駄目じゃん」

その人は鼻で笑うから、私はカチンとくる。

海斗さんは両氏の仕事に誇りを持っているし、鼻で笑われる職業なんかじゃない!

「そんな!海斗さんのことをバカにしないでください!」
「そうだな、バカにしないでもらいたい」

背後から聞こえた聞き覚えのある声に振り向くと、そこには姫川編集長と高坂専務が立っていて、姫川編集長は大股で男性に近づいて胸倉を掴んだ。

「ガキが、職業だけで調子に乗ってんじゃねーよ」
「何だよ、医者なら女にモテんだし事実だろーが」

なんなのこの人?絶対モテないタイプだ。

「職業より中身でしょ?ね~、九条ちゃん」

 高坂専務はパチッとウィンクする。

そうだよ、私は職業で海斗さんを好きになったんじゃない!私はつかつか歩き、男性の前に立った。

「私が好きな人の職業は、あなたからみたら笑っちゃうかもしれません。でも私が彼と知り合ったときは既にその職業についていたし、ぶっきらぼうだけど、とても優しいんです。少なくともあなたよりかは魅力があります」
「ふん、絶対医者のほうが幸せになれるって」

 男性は姫川編集長の腕を払い、お店を出て行った。
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