私が恋した男(旧題:ナツコイ~海男と都会男~)
自分から海に落ちた。

向こうが会ってくれないのなら、私から行くしかないんだもん。

あれ?浮き上がろうとするけど上手くいかなくてヤバイ、どうしよう、今度こそピンチかも?上に向かって泳いでるはずなのに、もしかして下に向かってる?

どうしよう、目の前が霞んできて、姫川編集長…せっかく背中を押してくれたのにごめんなさい。

目の前が真っ暗になりかけたら体が一気に浮上して、海面から顔が出たのがわかると同時に思いっきり息を吸った。

「ぷはぁ…、はぁ…、はぁ…」
「あんた、馬鹿か!!」

目の前に海斗さんが怖い顔しながら浮かんでいる。

「海斗さんにどうしても聞きたいことがあったから」

良かった、やっと海斗さんにあえたと思って力なく笑った。

「ったく、自分から海に落ちる奴がいるかよ」
「私が書いた記事を、読んでくれました?それを聞きたかったんです」
「読んだけど、今はこうしたい」

海斗さんがギュッと私を抱き締めた。

海の水は冷たいのに、海斗さんに抱き締められると体温が一気に上昇して、触れてる所が温かくなる。

「海斗さん、温かいです」
「しばらくこうするか」

海斗さんが抱き締める力を強くして体が密着するとまた体と心まで温かくなって、私たちは海に浮かびながらお互いの体温を感じあった。

「いちゃつくなら帰ってからにしろよ、ご両人」
「そうだぞ、ヒデ子婆ちゃんにチクるぞ」
「あっ……」

しまった、海にいるのは私と海斗さんだけじゃない。

「ほら、浮き輪を投げるから海斗は自分であがってこい」

船にいる漁師さんたちが私に浮き輪を投げてきたので受け取ると、漁師さんたちが引っ張ってくれて私は船にあがり、海斗さんも泳いで船に近付いて船に手をかけたら漁師さんが引き上げてくれた。

「大物釣ったな、海斗」
「煩い」
「俺はお前の親父さんとお袋さんのことを思い出したよ。お嬢ちゃん、知ってるかい?海斗の親父さんも海で溺れてたお袋さんを助けたのが馴れ初めなんだよ」
「親たちの話はいいって!」
「いいじゃんかよ、これでまた酒の肴にできたな」
「ちっ…」

 海斗さんは顔を赤らめて照れるのを、漁師さんたちが笑いながら冷やかす。

「さて、漁港に戻るぞ」

船は漁港へと戻っていき、私は船の後ろの所に座ってたら海斗さんが隣に座った。

「あんた、服が濡れちまったから、俺んところの家に来い」
「はい…」

 私たちは漁港に着くまで、手を握った。
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