私が恋した男(旧題:ナツコイ~海男と都会男~)
「その後はどうしたんですか?」
「読んで、兄ちゃんをぶん殴った」
「ええ?!」

そっか、だから姫川編集長の顔はあんなに痣やガーゼで傷を隠してたんだ…、兄弟喧嘩、すごかったろうなぁ。

海斗さんは右手を伸ばし、私の左頬に手を添える。

「あんたの記事に書いてあった言葉、嬉しかった。兄ちゃんに渡したくないと感じたから、思いっきり殴った」

渡したくない…、それって期待を込めてもいいの?

「あんたの気持ち、ちゃんと伝わったから」
「海斗さん…」

海斗さんが両手で私の頬を包むと、私の頬が熱を帯びてとても熱い。

「俺、漁師だけど本当にいいか?」
「良いです」
「中々会えなくて寂しくさせて、あんたを泣かすかも。それでもいいのか?」
「泣いたらまたこの縁側で、2人でこの海を見ましょ?」
「そうだな」

海斗さんは苦笑するとコツンと、おでこを合わせる。

あとちょっとで唇が触れそうな距離だ。

「まだ、あんたに返事を言ってなかったな」
「まだ、言ってないです。返事を聞かせて下さい」
「ああ、よく聞いて」
「はい……」

海斗さんはおでこから顔を離すと私の耳元に、口を寄せる。

「あんたが好きだ」

小さな声だけど私にはハッキリと聞こえて、海斗さんの言葉が耳元に残っている。

どうしよう、上手く声が出ない。

せっかっく海斗さんの気持ちを知れて、その嬉しさで胸がいっぱいで、何て言っていいか声が出せないで口を金魚のようにパクパクさせてると、海斗さんは苦笑する。

「無理に言わなくていいから」
「でも…」
「じゃあ、これで我慢する」
「んっ…」

海斗さんの唇が、私の唇に深く重なった。

「んっ、まっ…、かい…さん」

意識を保とうと海斗さんの甚平を手でキュッと握ると、少し唇が離れたと思ったら、また深く重なって時おり差し込まれた熱を絡ませあう。

「好きだ」
「私も好きです」

今まで気持ちを我慢していた分をぶつけるかのように想いを囁き、唇を重ねる私たちを海は波の音で、月は静かに光輝いて、優しく包んでくれた。
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