私が恋した男(旧題:ナツコイ~海男と都会男~)
「いただきます」

 私は手を合わせて箸を持って料理を口に運ぶと、見た目はシンプルな野菜炒めなのにシャキシャキと噛みごたえがある。

「美味しい……。この野菜炒め、とっても美味しいです」
「ありがとうございます」

 大守さんが嬉しそうに笑うから、私も自然とにっこりしちゃう。

 こんなに美味しい野菜だからきっと姫川編集長が頼んだ魚料理も美味しいはずだよねと隣を見ると、当の姫川編集長は無表情で黙々と食べている。

「……」
「姫川さん、お味はいかがですか?」

 大守さんも姫川編集長の表情に戸惑ってるし、私は内心ひやひやしてきた。

「あの~、姫川編集長?」
「ん?どうした?」
「さっきから黙ってらっしゃるので、とても気になります」
「ああ。俺、親父から飯を食べるときは話しちゃいけないって教わっているから気にすんな」
「そう…、ですか」

 私は姫川編集長の言葉に脱力して、お椀を手から落としそうになる。

 姫川編集長って見た目だらしなく、口が悪く、ご飯を食べるときは無言になるんだ。

「ほら、冷める前に食べる」
「は、はい」
「姫川さんって、面白い方ですね」

 私は口元にお椀を運び、姫川編集長は煮魚をものすごいスピードで口に運ぶ。

 そんな私たちの姿を大守さんは口を大きく開けて豪快に笑うから、私はなんだか恥ずかしくなってきてお味噌汁をズズッと静かに飲んだ。
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