私が恋した男(旧題：ナツコイ～海男と都会男～)
ようやく唇が離れると、海斗さんはギュッと私を抱き締めた。

「後で兄ちゃんに殴ったの、謝らないと」
「会社に来て、あの傷をみた時はみんなが驚いてましたよ」
「本気で殴ったからな」
「痣まで出来てました」

あそこまで殴られたら、暫くは傷も消えないし、痣もあのままで残りそうだよね。

「久しぶりに兄ちゃんと喧嘩したけど、スッキリした」

顔を上げると、海斗さんは何かに吹っ切れたような顔をしてる。

「あんた、記事に書くの大胆だな」
「そうですか？」
「あんな風に直球で書かれると思わなかった」
「これでも職業が雑誌編集者なので、書くのは得意です。因みに姫川編集長は中学生の文章だと、よく駄目だしをします」
「なんだそりゃ」

お互いくすくすと笑いあう。

あんなに離れていた距離が一気に縮まってよかった。

「あの雑誌、大切に保管する」
「えぇ、恥ずかしいですよ」
「でも俺にとっては、あんたの気持ちが書いてあるから残したい」

あぁもう、こんな風に言われたら断れないじゃん。

顔が一気に火照るのが分かって、海斗さんに気づかれ無いように抱きついて顔を隠した。

「あんた、面白い」

頭上で海斗さんのクスッと笑う声が聞きながら、自分が季刊に書いたことを振り返った。
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