私が恋した男(旧題:ナツコイ~海男と都会男~)
 私は電車を乗り継いでS駅に着き、茜から場所の地図をスマホ宛てに送ってもらい、ビルが立ち並ぶ路地裏を進むと茜の姿が見えたので走っていった。

「麻衣、こっちこっち。もー、遅いよ!仕事って忙しいの?」
「遅れてごめんね。最近部署を異動しちゃって、慣れるのに大変でさ~」
「そうなんだ-、私も後輩が増えちゃったから大変だよ。今日は気分転換に飲んじゃお♪このお店ね、店長さんがすっごくイケメンなの!!」

 私はお店の看板を見ると【Bar Jewelries】と書かれて、窓はなく、ドアもシンプルな鉄の扉で隠れ家的なのをテーマにしているのかな。

 タウン情報部で過ごすうちに、お店の外観を覚える癖が染みついたのは姫川編集長から口酸っぱく言われたからだ。

 私は茜の後に続いてお店に入ると、カウンターの中には一人の男性がシェイカーを振っている。

「三斗(ミト)さ~ん」
「茜ちゃん、いらっしゃい」

 茜は嬉しそうにシェイカーを振る三斗さんという男性に近づいていくと、三斗さんはシェイカーを振るのを止めて茜ににこりとほほ笑んだ。

 三斗さんは長髪を後ろ一つに束ねて顎鬚がとても似合っていて、顔は彫りの深く、大人の男性そのものって感じ。

「茜ちゃんの後ろにいる人はお友達?」
「そうなんですよ~、大学の時からの友達なんです」
「は、初めまして。九条麻衣です」

 私はぎこちなく挨拶すると、三斗さんはにこりと微笑む。

「初めまして、荒木三斗(アラキミト)って言います。ここのオーナー兼マスターです」
「三斗さん、美味しいカクテルを飲みたい♪」
「はいはい、麻衣ちゃんは何にする?」
「えっと、じゃあお勧めを…」
「了解」
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