私が恋した男(旧題：ナツコイ～海男と都会男～)
　姫川編集長の手にある雑誌の表紙に使われている写真は街を歩く人が写っているけれど、人というよりはやはり街が主役というアングルで写し出されていて、表紙にはシンプルに街の名称が印字されている。

「読んでみるか？」
「はい、読んでみたいです」

　私は姫川編集長から雑誌を受け取り、椅子に座って雑誌を読み始めた。

「ここ、こんな道があったんだ。あ、お店とかあるなんて知らなかった…」

　１ページ、1ページ捲るたび、まるで自分がその街を歩いているかのように錯覚する。
　
　勿論取材した【もりや】が掲載されているページがあり、そのページを読むと取材当時の雰囲気が走馬灯のように甦ってきた。

　私のお腹が鳴って姫川編集長には笑われたり、真剣な表情でカメラの撮影をしていたっけ。

　そして記事に書かれているのはどれも興味を持たせるような内容で、姫川編集長がこの街を知ってもらおうとする気持ちが伝わってくる。

『俺はそれ（歩いてみたい）を聞きたくて、『Focus』を作り続けてる』

　私はいつか姫川編集長が言った言葉を思い出して、雑誌の端をきゅっと握る。

　私にこんな素晴らしい雑誌の原稿を書けるだろうか、このままタウン情報部でやっていて大丈夫なのだろうかと、そんなモヤモヤとした気持ちが芽生え始めてきた。
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