私が恋した男(旧題:ナツコイ~海男と都会男~)
 仕事を進めていると、定時近くになった。

「九条、仕事が終わった後は予定が入ってるか?」
「いいえ、特に予定は入っていないです」
「じゃあ、付き合えよ。行きたいとこがあるから」
「はあ…、分かりました」

 恋人がいないと会社と自分の部屋の往復だけだし、見栄を張って『夜景が見えるお洒落なレストランで食事です』って言ってみようか、でもそれを言ったら鼻で笑ってきそう。

 そして定時になり、2人揃って四つ葉出版社を出る。

 姫川編集長は普段なら夜遅くまで残ってるから定時にあがるなんて珍しいし、行きたいところがあると言うからきっと取材の下見なのかと考えて、頭が自然と仕事モードになった。

 電車に乗って昨日茜と女子会をしたS駅に到着し、改札を出ると地下に広がる歩道を歩き始めると、時間的に仕事終わりのスーツを着た大勢の通行人がS駅に向かうように歩道を歩いていて、私たちはそれを逆行するかのように突き進む。

 やがて到着したのはオフィスビル群がある地域で、姫川編集長はNビルの入口に入ろうとした。

「姫川編集長、ここで取材ですか?」
「今日は取材じゃねーよ」

 取材じゃなければ一体何の用で来たのか、姫川編集長は理由を語ろうとしないから頭に?マークが浮かぶ。

 私たちはNビルの中にあるエレベーターに乗り込んで、姫川編集長は51階のボタンを押すと、エレベーターはその階数に向けて静かに上昇した。
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