私が恋した男(旧題：ナツコイ～海男と都会男～)

　私は指定席の車両に向うと、姫川編集長は２席ある列の通路側の席に座っていた。

「お前は窓側の席だ」
「はい、失礼します」

　姫川編集長は私が通りやすいように体を動かし、私は窓側の席に座ると、売り子さんがワゴンを押しながら歩いてきた。

「コーヒー、緑茶、お飲み物はいかがでしょうか？」
「ビールと、そのつまみをくれ」
「かしこまりました」
「まだ仕事中ですよ！しかも此れから取材じゃないですか！」

　仕事中にビール飲むなんてあり得ない！私がファッション部に居たときは、水瀬編集長がお酒禁止令を出す位に厳しかったのに。

「水瀬みてーだな。高坂なんて、平気でワインを開けるぞ」

　頭の中で、高坂専務が嬉しそうにグラスをかかげている姿が浮かぶ。

「仕方ねぇ、緑茶２つで我慢する」
「かしこまりました、４００円です」

　売り子さんは緑茶の缶２つを姫川編集長に渡して小銭を受け取ると、またワゴンを押しながら車内販売を続けた。

「お前の分だ」

　姫川編集長は緑茶の缶１つを私に差し出して、プルを開けて飲み始めた。

「お金、払います」
「いいって、此れくらい。ダッシュして喉が渇いてただけだ」
「いただきます…」

　私は缶を受け取るとプルを引いて緑茶を飲み、緑茶はとても冷えていて、ダッシュで渇いてた喉を潤すには充分だ。