私が恋した男(旧題:ナツコイ~海男と都会男~)
「……」
「……」

 私と海斗さんは無言で見つめあったままで立ちつくし、何から言えばいいんだろう、会いたかった人が目の前にいて口を開きたいけど上手くいかない。

「九条を助けた漁師って、やっぱりお前だったのか」
「そうだけど、兄貴には関係ない」

 兄貴?!海斗さん、姫川編集長の事を兄貴と言ったよね?兄弟だなんて嘘!顔は全然似てないし、髪型も肌の色も似てない!

「兄貴、遊んでないでとっとと帰れよ」
「うっせー、こっちは仕事で来てんだ。お前と話をしている暇はねぇんだよ」

 髪型と肌の色は違うけど言葉づかいはそっくりで、それと名字が違うのも気になるけど、その辺りは触れてはいけないよね。

「俺は忙しいから、戻る」

 海斗さんぶすっとした表情をしながら海の家の裏側へと行ってしまい、折角久しぶりに会えたと思ったけれど、挨拶も出来なかったのは悔やまれる。

「海斗の奴、しょうがないな。打ち合わせなら海の家の中でしようか」

 男性に案内されたのは建設中の海の家の中で、壁にはメニュー表の他にすぐ傍の海の写真が数点ほど飾ってあり、まだ建設中とあって机や椅子は2組しかなくて、その内の1組の席に案内をされた。
< 84 / 161 >

この作品をシェア

pagetop