私が恋した男(旧題:ナツコイ~海男と都会男~)
◇第2章:都会男と仕事始め
 突然の人事異動の告知から一夜明け、出勤するために藍山駅から四つ葉出版社に向けてお気に入りのパンプスを履いて歩いているけど、心の中はずっとざわついて落ち着かない。

 そりゃそうだ、四つ葉出版社に入社してから今までファッション部一筋でいたのに突然の異動なんだもの。

 タウン情報誌『Focus』を手掛ける部署とは交流をしたことがないし、昨日水瀬編集長と話してる時に現れた姫川編集長は髪の毛がモジャモジャしてるし服装もきちんとしてないしだらしない印象というか、口調もキツくてなんだか嫌な第一印象しかない。

 そんな人と上手くやっていけるのだろうかと不安で一杯で、歩くスピードが遅くなる。

 私は階段を使って2階にあがり、ICカードをかざしてドアを開けた。

「うぃーす」
「おはよ」
「おはようございます」

 先に出勤してる社員たちが挨拶し、私も挨拶してファッション部のエリアに向かうと、自分の机のに置かれている段ボールに視線を落とした。

「やっぱ異動は現実なんだな」

 私は落胆しながら、ぼそっと呟いた。

 昨日は水瀬編集長から必要な道具は段ボールに詰めて欲しいとも言われたので、渋々荷物を段ボールに詰めてガムテープで蓋をし、ファッション部にいるメンバーに自分が手がけていた仕事の引き継ぎをして今日に至る。

 四つ葉出版社は部署の数が少ないし、そうそうメンバーが変わることなんてなかったはずなのに『何で私が?』と頭の中でこの疑問がずっとぐるぐるしていて、現実を受け入れようとしていない。

 私は机の上に置かれている段ボールに手をおいて、ふぅ~と息を吐く。

「また戻ってこいよ」
「フロアは同じだから、ランチや飲み会をやろうよ」
「みんな…、ありがとう」

 未だぐるぐるしている私にファッション部のメンバーたちが声を掛けてくれて、私はやっぱりこの部のことが好きだなぁと改めて実感した。

 そうだよね一生の別れじゃないもんねと、皆の言葉に鼻の奥がツンとなり、潤むのを必死に堪える。

「みんな、ありがとう。行ってくるね」

 私は段ボールを両腕で持ち上げ、ファッション部からタウン情報部の所へ向かった。
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