俺の妹が可愛すぎて。
優花の言葉を訊いて、一瞬だけ眉間にシワを寄せた。
『松丘くんが、あたしにキスしようとしてて…』
は?
キスしようとしたって?
「……さっき、松丘くんが気分が悪いから帰るって言ったでしょ?……あれ、多分あたしが泣いて、気まずくなったからだと思うんだ……。」
二人きりになりたいと晴に言われた時、なんだか嫌な予感がしたのはこのせいだ。
きっと晴は早く優花とそうなりたい…その気持ちが強かったんだと思う…。
けど………。
「は?マジ?……ったく、あいつ……あん時、釘刺しといたのに…」
思わず口に出してしまった言葉を、優花は聞き逃さなかったみたいで。
「……くぎ…?どういうこと?」
目を丸くして、首を傾げて訊く優花。
あ、しまった………
これ、言っちゃったらわざとハグれたことにならないじゃん。
でも、結局はこうして本来の目的のダブルデートが失敗に終わったわけだし……。
今、この状況で優花に話さないという選択肢はない気がした。
「……あのさ…優花、晴にキスされそうになった時点で気づいたと思うけど…。
晴、優花に好意持ってて……今日のダブルデートでもっと仲良くなりたいって思ってたみたいなんだ。
で、晴が優花と二人きりになりたいって言って……
晴には『優花の嫌がることすんなよ』って釘刺しといたんだけど……。
ごめんな……優花に嫌な思いさせたな」
「……ううん、ユキちゃんのせいじゃないもん。謝らないで。
………でも、ユキちゃん……あたしのこと、気にして松丘くんにそう言ってくれてたんだね。……ありがとう」
もしかしたら、また泣かせてしまうかもしれないと思ったのに、そう言った優花は優しく笑っていた。
「……いや、だって俺…一応、優花の『兄ちゃん』だしな」
そう言うと、優花はコクンと頷いて笑った。
………それより、あいつ……即効で優花にキスなんかしようとしやがって……。
……晴を応援すると決めて、半ば嫌々ながらダブルデートに参加したけど…
やっぱり……
晴にヤキモチを妬いてしまう自分がいて。
……つくづく自分の決意が、弱くて脆いものなのだと気づかされる。
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