俺の妹が可愛すぎて。
「えっ……あぁ……あの後ね、海行ったんだよ」
「……海?」
透子ちゃんの眉間にしわが寄る。
「あっ泳いだわけじゃないんだけどね!……ユキちゃんが海に行きたいって言ったから」
そう話しながら、あの時のことを思い出していた。
紅い夕陽に照らされた浜辺で、ユキちゃんに抱きしめられたことを。
抱きしめられたユキちゃんの匂いに安心して、ドキドキして胸が苦しくなって……このまま時間が止まればいいのにって思った。
「……ふ〜ん」
透子ちゃんはつまらなさそうに呟いた。
透子ちゃんはいつもポーカーフェースだから、たまに何を考えているんだろうって思うことがある。
今も……いや、今だけじゃない。
最近の透子ちゃんはユキちゃんの話をする時、なんだか難しい顔をして話す。
視線だって気づけばユキちゃんのことをよく見ているような気がするし……
……幼なじみだからかな…なんて、あたしは思っていたけれど……
あたしの自分都合な勝手な想像は、昼休みの透子ちゃんの言葉で崩れていった。
朝のHR前も休み時間も、ユキちゃんは声をかけてくれなかった。
いつもは一緒なのに、先に登校してしまったことを何か問いただされるんじゃないかと思っていたのに…ユキちゃんは何も訊かない。
……昨日の朝のあの時から、あたしとユキちゃんはまともに会話をしていない。
あたしが避けるような態度をしてるからだ。
……きっと、変な奴って嫌われたかもしれない…。
……隣の席にいるのに……
こんなにもユキちゃんを遠くに感じたことはなかった。
「……栗原さん、屋上で食べない?」
昼休み、珍しく透子ちゃんがあたしの席まで来てそう言った。
「……屋上?暑くない?」
「……日陰あるとこ知ってるから大丈夫。……それに、栗原さんに相談があるの。……人多いところだと、訊かれたら嫌だから…」
透子ちゃんがあたしに相談なんて、ほんと珍しい…。というか、透子ちゃんに相談なんてされたことない。
「うん、いいよ。じゃあ、いこっか?」
そう言って、あたしと透子ちゃんはお弁当を持って屋上へ向かった。
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