俺の妹が可愛すぎて。
『……ねぇ…ママ……どうして、僕にはパパがいないの…?』
『……パパは遠くにいるの……。お仕事で大変なのよ。……だから、ユキはパパには会えないの』
母さんは決まって幼い俺にそう言っていた。
『……っ………』
そして、決まって……
俺が父さんのことを訊いた夜、母さんは一人泣いていたのを覚えてる。
母さんを悲しませたくない……
幼心にそれを覚えた俺は、その時から父さんのことを一切訊こうとはしなかった。
小学4年生のころー。
父さんのことを知りたかった俺は、母さんが仕事に行っていない時に、何か父さんのことがわかるものがないかと、家中の引き出しを開けて探した。
母さんの寝室の奥の棚に、あるものを見つけた。
父さんと俺が写っている写真が数枚だけ入ったアルバム。
写真の下のメモ書きには、
『リバナエージェンシー設立 記念』
と書かれていた。
スーツ姿の父さんらしき男性が写っていた。
俺は一度だけ、父さんに会いにその会社へ行ったことがある。
……でも……
会社の目の前まで来て、すぐに帰ってしまった。
……母さんがまた泣いてしまうんじゃないかって思ったから。
どうしても真実が知りたくて、
最期に一度だけと…
母さんが泣いてしまうのを覚悟で、中学の時に母さんに父さんのことを訊いた。
『……パパは浮気したの。あたし達を裏切ったのよ。
だから……もう、ユキはパパのことなんて考えないで』
母さんが真っ直ぐ俺を見て言った。
母さんの頬に涙が一筋流れた。
母さんが泣いたのを見たのも、
俺が母さんに父さんのことを訊いたのも、それが最後だった。
母さんの言うことだけが、俺の知る真実だった。
だから……
俺と母さんを裏切った父さんのことを腹ただしいとも思ったし、もう父さんのことを考えるのも面倒になった。
俺が母さんを守っていこうー…
父さんは初めからいないと思うようにしようと思った。
例え、どこかで生きていようと……
もう俺と母さんには関係ないんだと。
.