俺の妹が可愛すぎて。



『……浮気してたとも訊いたけど…。……なのに、今更なんなわけ?……自分の都合のいい時だけ現れんなよ。……裏切ったくせに…。……俺と母さんが、どんな思いだったかわかってんの…?

……母さんなんか、俺が父さんのことを訊く度に泣いてた……。

そんな母さんの気持ちとか、
それを見た俺の気持ちとか…

わかってここに来てんの?』



他の湧き出てくる感情より、何より腹ただしさのほうが優っていた。

今まで溜めてた思いを吐き出すように、そう言うと父さんはただたださみしそうに『ごめん……すまなかった…』と俺に頭を下げた。


別に謝ってほしいわけじゃないし、俺に頭を下げる父さんなんて見たくなかった。

だから、視線を落とすと不意に泣きそうになった。


小さい頃は、父さんに会いたくて会いたくてたまらなかった。


幼稚園の頃から、当たり前にいるはずの父親がいなくて、どうして自分だけなんだろうって何度も切なくなった。


父の日が苦痛だった。


父さんとサッカーがしたかった。

父さんと釣りに行きたかった。

父さんと腕相撲したかった。


父さんと……

いっぱい、話したかった。


父さんに……

……会いたかったんだ。


なのに……それを素直に嬉しいと喜べるほど、もう俺は子どもじゃなかった。


『………実里は……少し、勘違いをしてるようなんだ…。……もう、こんなこと言っても…ただの言い訳にしか聞こえないんだけど…』

『………勘違い…?』


そう問いかけると、父さんは氷の溶けた水を一口飲んで、話し始めた。






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