俺の妹が可愛すぎて。


風馬の怪しい笑顔と催促するような態度に押され、俺は優花の部屋へと向かう。



…いや、多分風馬が催促しなくたって、俺は優花の部屋へ言っただろう。


今の自分が人の悩みを訊いてあげるほど余裕なんてないけど、優花のこととなると、俺は弱いこと……俺はもちろん、風馬だってわかってる。



「……優花ー。…カレーあるけど、食べねぇ?」


コンコンと部屋のドアをノックするけど、応答がない。


「……優花ー?……具合でも悪いのか…?」


それでも返事がない。

不思議に思って部屋のドアをそっと開けた。


開けた瞬間に身体中が反応する優花の香り。


部屋は少し薄暗くて、ベッド脇の机に置いてあるデスクスタンドがついてるだけだった。


数歩、部屋に入ったところで優花が寝ていることに気づいた。



「……優花…?」


声をかけたけど、優花は起きない。


熱でもあるのかと、そっと優花のオデコに触れたが熱はないみたいだった。


その流れで頬に触れながら、優花の寝顔を見ていた。



もしも優花が『妹』なんかじゃなかったら…なんて、好きと気づいた時点から何度も思ってた。


だけどこんな関係にならなければ、俺と優花は出逢ってないだろう。


……たとえ、優花が他の男と付き合ったり、優花が俺を突き離したって…


……もう、俺は諦めきれないこと、十分にわかった。


……正直、誰かを好きになってこんな風になるなんて、思ってもなかった。


『好き』なんて感情、すぐに捨てれるものだと思ってた。


……なのに……


いつの間に…こんなに好きになってたんだろうー。





ふと視線をデスクスタンドに移すと、その明かりが照らすものに目が止まる。


「……?……これ……」


スタンドの下に置いてあったのは、父さんが喫茶店で優花に渡した父さんの名刺だった。






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