俺の妹が可愛すぎて。
* * *
先輩の引退試合当日。
風馬は緊張してるようだった。
「負けても恨むなよ!知らねぇぞ!」
試合会場へ行くバスの中で、隣の席が風馬だったもんだから、目的地に着くまでずっと風馬からそんなことを言われていた。
「別に恨まねぇし!ってか、三年の先輩だって負けてもいいから、楽しくやろうって言われただろ?」
「三年の先輩はそうだけど……松丘先輩がこえぇんだもん…」
晴は勝ち負けにかなりこだわるタチらしく、その闘争心は確かに三年の先輩からも怖がられるくらい。
「晴!一年、イジめてんじゃねぇよ」
前に座ってた晴の座席をボンと蹴ると、晴の隣の席にいる持田が振り返る。
「晴、寝てるよ」
「は?マジで?!」
風馬はこんなに緊張してんのに、晴は緊張感のかけらもなくグウグウ寝息を立てていた。
試合後だったらまだしも…。
「……すげぇな、松丘先輩」
風馬も呆れていた。
「ユキちゃん、はい、これあげる」
後ろの席の優花が俺に何かを手渡す。
隣には透子。
「あ、サンキュー」
「ついでに風馬もいる?」
「俺、『ついで』かよ!」
優花が俺にくれたのは練乳イチゴミルクの飴。
優花ってめっちゃ甘党じゃん。
そんな風に少し笑みをこぼしながら、優花からもらった飴を口に含んだ。
口いっぱいに優しい甘さが広がって、なんだか気持ちもあったかくなっていった。
「うっしゃ〜!気合いれていくぞっ!!
風馬、絶対ヘマすんなよぉ!」
バスでたっぷり睡眠をとった晴は、ご覧の通り気合入りすぎだった。
「はぁ〜……おっかねぇ…」
風馬のビビる声がボソッと聞こえた。
三年の先輩から「力抜いて」「大丈夫!楽しんでやろ!」と励まされていた風馬だったが、晴のあの勢いじゃ、それもあまり意味がなかった。
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