俺の妹が可愛すぎて。


* * *


先輩の引退試合当日。


風馬は緊張してるようだった。


「負けても恨むなよ!知らねぇぞ!」


試合会場へ行くバスの中で、隣の席が風馬だったもんだから、目的地に着くまでずっと風馬からそんなことを言われていた。


「別に恨まねぇし!ってか、三年の先輩だって負けてもいいから、楽しくやろうって言われただろ?」

「三年の先輩はそうだけど……松丘先輩がこえぇんだもん…」


晴は勝ち負けにかなりこだわるタチらしく、その闘争心は確かに三年の先輩からも怖がられるくらい。


「晴!一年、イジめてんじゃねぇよ」


前に座ってた晴の座席をボンと蹴ると、晴の隣の席にいる持田が振り返る。


「晴、寝てるよ」

「は?マジで?!」


風馬はこんなに緊張してんのに、晴は緊張感のかけらもなくグウグウ寝息を立てていた。

試合後だったらまだしも…。


「……すげぇな、松丘先輩」


風馬も呆れていた。


「ユキちゃん、はい、これあげる」


後ろの席の優花が俺に何かを手渡す。

隣には透子。


「あ、サンキュー」

「ついでに風馬もいる?」

「俺、『ついで』かよ!」


優花が俺にくれたのは練乳イチゴミルクの飴。

優花ってめっちゃ甘党じゃん。


そんな風に少し笑みをこぼしながら、優花からもらった飴を口に含んだ。


口いっぱいに優しい甘さが広がって、なんだか気持ちもあったかくなっていった。







「うっしゃ〜!気合いれていくぞっ!!
風馬、絶対ヘマすんなよぉ!」


バスでたっぷり睡眠をとった晴は、ご覧の通り気合入りすぎだった。


「はぁ〜……おっかねぇ…」


風馬のビビる声がボソッと聞こえた。


三年の先輩から「力抜いて」「大丈夫!楽しんでやろ!」と励まされていた風馬だったが、晴のあの勢いじゃ、それもあまり意味がなかった。





< 98 / 315 >

この作品をシェア

pagetop