あなたが作るおいしいごはん【完】

「……ごめんなさい。
私は…恭君の初恋にも
寛子さんの希望にも
期待にも…応えてはあげられない。」

私は涙を流したまま

「…彼に想われていなくてもいい。

父親同士で決められた事でもいい。

彼が父への恩返しの為に
この話を受け入れたとしてもいい。

この先…一生
彼からの愛がなくてもいい。
愛されなくてもいい。

彼が私のそばにいてくれる限り

嫌いだと言われない限り

私は彼が作ってくれる
おいしいご飯を食べていたい。」

そう言い切ると

「…恭君…ううん…“薮嶋さん”。
【押谷和亮先生】はね…。
今の職業に就くまで
あのビルにスタジオを構えるまで
今の地位を築くまで
語り尽くせないくらい
たくさんの苦労を重ねてる。

…だけど、本当に
彼は心から料理を愛してる。
大好きな仕事を楽しくこなしてる。
本心で料理を習いたい男性生徒さんに
優しく丁寧に指導して
アシスタントさん達にも向き合って
自立も応援してる。

…だから
私があのビルに出入りしているから
教室を受講を申し込んだのなら
本気で彼の料理を習う気ないなら
………私は許せない。」

と、真っ直ぐ前を向いて言い放った。









< 132 / 290 >

この作品をシェア

pagetop