あなたが作るおいしいごはん【完】

『…萌絵は俺の婚約者なのに…。
俺の姫なのに…。
こんな目に遭わせておきながら
謝って済むと思うのか!!』

怒りで肩を震わせた彼は

今まで見た事がないぐらいの

表情を浮かべて立ち上がると

『……薮嶋恭平!!
お前は…どうして…萌絵を。
どうして…萌絵を
こんな目に遭わせたんだ!!』

鋭い目で睨みつけながら

薮嶋恭平に掴みかかろうとした。

………あっ。

彼のその目には涙が滲んでいて

…彼が…泣いてる。

その姿に私は目を見開いた。


今まで私に見せた事のない彼の姿に

「……カズ…さん。」

私は痛みを忘れて胸が高鳴った。


やがて

『…和亮君やめなさい!!
君までこの男に手を出してはいけない。』

父が前から彼を制して

『…カズ義兄さん、やめろよ!!
気持ちはわかるけど
料理をする大切な手なんだし
TVにも出てる人間なんだから
むやみやたらに手を出して
己を傷つけたらいけない!!』

いつの間にか帰宅していた靖英が

状況を察して

後ろから羽交い締めするように

慌てて彼を止めた。





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