あなたが作るおいしいごはん【完】

時計を見ると17:30を過ぎたところ。

彼は今の時間になると

アシスタントの速水君達と

開講前の最終準備の段階に入り

40〜50代クラスは半分以上が

会社勤めから直行しているからか

スーツ姿や作業着が入った荷物を

抱えた生徒さん達が彼のスタジオに

集合し始める時間でもある。


私の父も秀和社長も50代前半だから

彼にとって親世代になる人達が

役職関係なく和気あいあいとして

彼を『先生』と慕って

緊張や笑顔の中で料理を習い

彼も生徒さん達の緊張感を和らげて

柔らかい微笑みを浮かべて

優しく丁寧に指導する姿や

教室終了後も生徒さんを見送る彼に

皆が一人一人笑顔で

彼に感謝の言葉を残し

家路に戻っていく姿を

事務所からチラリと見る度に

私はいつ見ても微笑ましかった。


気難しくて

皆となかなか打ち解けられなかった

生徒さんがいた時も

彼は嫌な顔をせずに指導した。

その人は何度か通ううちに

彼の魔法にかかったように

笑顔で優しい表情に変わっていった時

彼が人を笑顔にしていく魔法の力に

尊敬の念を抱いた事もあった。








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