あなたが作るおいしいごはん【完】

俺は実際この姉弟を預かるのは

嫌じゃなかった。

どちらかと言えば預かるのは

彼女の方ばかりだったが

預かっていても

学校で出された宿題をしているか

お絵描きをしているか

静かにテレビを見ているような

割とおとなしい女の子で

たまに宿題の問題で

どうしてもわからない所を

聞かれる以外は

手をやかせるような子でもなく

昼食に俺が彼女にメシを作って出すと

嬉しそうに笑いながら

綺麗に残さず食べて

挨拶も出来て礼儀も良かった。


しかし

自分の父親と弟が出かけていった後

ほんの少しだけ俯いて

寂しそうな横顔を見た時

やっぱりまだまだ子どもだと思いつつ

俺自身も母親が出て行った後

家政婦さんに後を任せて

仕事へ行く親父を

この家の玄関で見送っていた

昔の自分と重なるようだった。


『…萌絵ちゃん、良く来たね。
今日もお兄ちゃんと留守番しような?』

と、手を差し伸べると

コクンと頷いて握り返してくれた。


…可哀想に。

若干震えている手を俺は優しく引いて

預かっている荷物と一緒に

居間へと連れていく時に

彼女の切ない気持ちがわかる気がした。
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