あなたが作るおいしいごはん【完】

『……料理の……先生?』

俺の趣味は昔から料理で

料理がずっと好きだったけど

正直なところ、趣味以上に考えたり

職業として捉えて考えた事はなかった。


『…和亮は私の会社を継ぐんだ。』

と、幼少期から

親父に言われ続けた事はあっても

別の事は一切言われた事はないから


「……まるで、TVに出てる
お料理の先生みたいでカッコいいね。」

そんな言葉は生まれて初めて言われた。


『………。』


何だかまるで衝撃を受けたかのように

片付ける手を止めてしまった。


『……料理の先生…か。』

俺はその言葉を何度も呟いていた。


すると

そんな俺の様子を見た彼女が

「…カズ兄ちゃん。」

と呟きながら俺のシャツの裾を

ツンツンと引っ張った。

ハッとした俺が彼女に視線を向けると

「…カズ兄ちゃんはきっと
料理の先生になれると思うよ。」

彼女はそう言い出した。

『…萌絵ちゃん?』

あんなに寂しそうな

表情をしていたのに

ずっとおとなしい子だと

そう思っていたのに

今までに見たことがない彼女の

小学生らしからぬ強い眼差しに

俺の心臓がドクンと脈打った。












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