あなたが作るおいしいごはん【完】

彼が見透かしていたように

確かに私はあの場で

あまり食べてはいなかった。

いや…食べられなかった。

着慣れない着物の締め付け感

『結納』『婚約』と言う

まだまだ自分には

縁がないと思っていた事を

僅か18歳にして

経験してしまう事になると言う

言葉に表すのが難しい緊張感が

勿論あった。


でも、一番の理由は

あのお見合いの日から今日までの間

気にしないように

深く考えないようにと思いながらも

やっぱり気にしてしまい

時には深く考えてしまい

友人にだって恐らく理解出来ない

して貰えないだろうから

気楽に相談も出来なくて

一人で悶々と悩む以外他なく

先ほどと同様に

言葉に表すのが非常に難しい

そんな複雑な想いを

今日まで引きずって過ごして来た。


私の父への恩返しが目的で

この婚約を受け入れた

大人の彼…カズ兄ちゃんは

どんな想いで今日を迎えたのかは

わからないけど

愛し合って結婚する事が当たり前だと

思っていた子どもの私には

この話がやはり重い問題過ぎる事には

変わりなかった。

< 55 / 290 >

この作品をシェア

pagetop