愛すと殺すと
「い、言い訳?」
「まず失礼から話すな?
彼女は包丁持ち出すほどお前を愛してんだ。
義務感とか失礼すぎんだろ。
で、言い訳。
お前彼女と付き合えない理由とかあんのか?」
ドクンと心臓が跳ねた。
俺の全細胞が反応し、悪寒か武者震いか、鳥肌が立つ。
――そうだ、俺は彼女を愛してる。
陽、陽って、いつも一途で甘えん坊で。
なによりも大事な、彼女を――
「俺には、付き合えないわけが、ある、んです」
とぎれとぎれになる。
――人を好きになれば、その日が寿命。
愛してしまった、彼女を。
そうすれば、俺も鳳紀のように――
その時だった。
携帯がなったのは。
「あ…」
呆然としながらそれを取りだし、液晶を確認する。
「せ、先生?」
山本朱祢、そう表示されている。
なんだか胸騒ぎがして、「失礼します」と断り、一旦店から引っ込む。