愛すと殺すと

夜中に目がさめた。



カタン、という音で。



「……」

しんとした部屋に響く、物音。


揺れる人影に気づいて、見てみた。


「お兄ちゃん」


「起きたか」


はは、と哀しみを含んだ笑みをみせ。



何かを眺めているのに気づいた。



「何見てるですか?」


「あぁ…これ」




掲げたのは掌サイズの母子手帳だった。




ボロボロで、使い古したそれを愛しそうに見ている。


「…千晶が幸せについて語ってたから、昔の心の拠り所を思い出して」

「よく眺めてたですね、そーいえば」


仕事のあと、学校でいじめられたあと――

じ、と眺めてた後ろ姿を思い出す。


“芳川陽紀”


そう書かれた母子手帳の中身は、びっしり埋まっているのを知っている。


「今日は、びっくりしました」


「何が?」


不意に話始めた私に、律儀にはんのうしてくれる。
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