愛すと殺すと

――結局、今日はやらなかった。

彼を満足させてかえってもらった。


さすがに不服そうだったけど、まあいい。


とりあえず、私はいつもの作業に移る。

彼が触れたシーツを洗濯機にぶちこみ、コップから棚、すべてを拭く。

ついでに学生鞄も洗おうと一緒にぶちこんだ。このために水洗い可のやつにした私。



最後に、一番汚いものを洗う。



「…っ、ぃ…」


涙が滲むほど、強く。


「…くっ……ぅ」


血でタオルが染まるほど、荒く。



己の体を擦って擦って擦って。



シャワーを流し続けて、もう30分は経つだろう。

それでもまだ汚いと、擦り続ける。


「…くくくっ」


苦笑がもれた。

意味がわからない自嘲を含んだ笑いが、喉をくつくつとくすぐる。


流れるシャワーには紅が。
擦るのに用いるタオルには皮膚が。
体には数多のできたての傷が。


――滑稽だ。


「くく…く、くくっ」



あぁ本当に、



「汚いや…」
< 183 / 245 >

この作品をシェア

pagetop