愛すと殺すと
「だからなに?」
「だから治療をね」
艶やかな黒髪が、居酒屋のオレンジの光を照らす。
この人の目が赤っぽいことが頭をよぎった。
「美澤はね、愛を欲してんのよ」
「…愛?」
確かに、陽くんに愛されたかったけど。
私は失恋したんだ。
正直、それ以外はいらないって言ってもいいかもしれない。
「正確にはあんたじゃなく、幼少期の美澤が産んだトラウマが。
美澤が作る愛でもいいから、とにかく欲してる。
子供を作りたいと願ったり、愛してる自分が生きてることを自覚したり」
「愛してる自分って、」
「人は自分を愛さずには生きられない。そんな自分が生きてるかわからなくなったとき、自傷して生を感じるものもいる。
典型的な例がリスカ。
あんたの場合はセックスだけどなー」
唐揚げを口に入れながら、真面目なことをいい始める。
私は、汚い私を愛してるの?
自覚が沸かないけど、なんだか繋がった気がする。
汚いものから我が身を守りたい――そう考えるのは、きっと我が身が可愛いからなんだろう。
孤立する我が身が可哀想だから、汚くても群れにいようとする――意味のわからぬ思考は、我が身が可愛いからか。