愛すと殺すと

◇◇◇



「………」



無精髭。

廃れたスーツに、大きい手。



じっと見つめていると、にやりと隣の山本先生が笑った。


「どうだ?こいつは」


「どうだって……まあ、典型的な刑事だな、と」


「カカカッ、だろ?めっちゃ刑事だろ」


嬉しそうに笑って、目の前の男の人の肩をポンポンと叩いた。


「おい石橋、挨拶くらいしろ」


「え、と……石橋です、よろしくお願いします…?」


「慣れてなさすぎだろ、てか名刺いらないから」


名刺をなぜか差し出されて困惑。

変わった人のようだ。






一一結局、私は捨てられた。




どうやらあの朝お母さんが優しかったのは、あの矢田って人との間に子供ができたみたいで。

なんとなく申し訳なさってのがあの人にも存在したらしく、お金をあげるにつながったらしい。


だから、私が親権を捨てて欲しいと言ったのは渡りに船だったのかもしれない



「…」


ちょっと悲しい気がしたのは、まだどこかで愛情があったからか。


愛されたいと思うだけ、まだ好きだったのかも。


『…思い出したの』

『お?』

『あのとき着てたピンクのワンピースがお気に入りだったわけ』

『デザインが気に入ってたんじゃないのか?』

『ううん、あれはね』




あれは、お母さんの服をリメイクしたものだったの一一






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