愛すと殺すと


お母さんが昔着てきたものを着れて嬉しかった。


夜中まで響くミシンの音に、笑顔で渡されたそれ。


思い出した。



だけど私は今日、それを捨てる。


捨てて、やり直すのだ。



「よろしくお願いします、石橋華恵です」


「よろしく華恵ちゃん…えと、じゃあ家で妻が待ってるから」


「はい一一行きましょう」



そう言って、荷物とともにワンボックスカーに乗り込む。


石橋家の匂い。


子供ができない体質らしい奥さんは、私を引き取るという話が出た時、それはそれは喜んでくれたそうだ。

本当は迎えに来たかったらしいんだけど、あいにく風邪を引いたみたいで。



後に、この風邪は一一私のための毛布を徹夜で作って起こしたものと知る。



「華恵」


ぶっきらぼうに先生が叫ぶ。




「一一愛してもらえよ」




そうだ。


私はこれから、愛してもらいに行くのだ。


「一一うん、やり直すよ、ぜんぶ」





そして、車は動き出した。





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