愛すと殺すと
◇◇山本先生の保険日誌◇◇


それは、眠さと格闘しながら書類と戦ってた時のこと。


「うっ…うぅ…ひくっ」


変な泣き声が聞こえてきた。


「ん?」


一応心理カウンセラーでもある私は、書類を後にし、声のありかを探る。


静かな廊下。


探すのは簡単だった。



「…ひくっ…うぅ…ん……」



中央階段の下に、そいつはいた。


黒髪を2つに結んだパット見地味子。


なーんて、教師が言っちゃダメか。



「どーした?」



声をかけてみる。


ぱっ、と顔をあげる少女。


「……?」


涙でぐちゃぐちゃの顔をもたげて。




「……なーんだ、先生か」




落胆の声を出した。



「つまんないのぉー、『どーした?』なんてゆーから、陽紀くんかと思ったのに…」



ピョンッと立ち上がり、愚痴を溢しながら行くそいつに怪訝な顔を向ける。





陽紀?





「おい、陽紀ってまさか…」


「あ、そっか。山本先生って陽紀くんのお気に入りなんだっけ」


くるり、こっちを向いた。




涙はもう、流れてなかった。




さっきの声が嘘みたいに。


にやりと妖艶に笑うそいつは、どう見ても地味子なんかじゃない
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