愛すと殺すと
何回も何回も千晶は自殺未遂を犯した。

ブレザーに隠れてる手首には、未だ消えないリストカットのあとがある。


『お兄ちゃんが消えた』


しきりにそう言う千晶を宥めるため、俺は言った。


『俺は消えないから』


すると、次はこういった。


『千晶が施設嫌だって言ったから、お兄ちゃんは逃げ出そうとしたんだ』


だから、こう言った。


『違う、鳳紀に好きな人ができたからだ』と。



『大切なお兄ちゃんに、好きな人ができたからお兄ちゃんは死んだんだ』



俺のせいでそう解釈した千晶。


だからこんなに必死になる。


自分以外を愛したら、死んじゃうんじゃないか、と。




だったら、だったら――




「陽が死んじゃうんなら、千晶が殺す。


お兄ちゃんみたいに消えちゃわないように、しっかり千晶がつなぎ止める」




そんな考えになる。


千晶は好き。

千晶は大事。


だから、俺はそれに答えなきゃならない。


意思の尊重が千晶を守ることだと信じて。



「殺せばいい。

俺は千晶以外を愛してないから」



千晶を守りたいから死ぬんだ。


千晶を今度一人にしたら、また自殺をはかる。


『殺せ』は、千晶を愛している証になる。

なぜなら、『殺せ』は千晶以外を想っていないことになるから。


千晶しか考えてない。


それはあながち、間違ってはいない。



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