愛すと殺すと
見事彼女は自分の安心を手に入れたのだ。
俺の指示によって。
「よ、陽!」
遅れてきた鳳紀は、息を荒くしていた。
「…お前なのか?」
静かに訪ねてきた彼に、こくりと頷く。
「お兄ちゃん!」
鳳紀が来たのがよほど嬉しかったのか、千晶は俺を離れて抱きつきに行った。
端からみたら、恐怖で怯えた妹を抱き締める兄にしか見えない。
が。
明らかに、鳳紀は少しだけ戸惑った。
いつもは柔らかく迎える彼が、少しだけ。
その変化を、俺は見逃さなかった。
「……千晶」
悲しみと、呆れを含んだ声。
気づかない本人は、兄の胸板にぎゅうぎゅう抱きついてる。
「お兄ちゃん、あのね、なでなでして?」
甘えた声で言う彼女に、ビクッと少し肩が上がった。
「あ、あぁ…千晶」
…震えてる。
声も、手も。
「えへへ」
気づく様子のない千晶は、嬉しそうにそれを受け入れた。