愛すと殺すと
それから、1年と4ヶ月が過ぎた頃。
中学3年生になった鳳紀と中学1年の俺らは、相変わらず蒲公英園での生活を強いられていた。
「くっさ…」
ラベンダーの芳香剤の香りに顔をしかめながら、大量の洗濯物を畳む。
マザーの好きな香りはラベンダーだ。
身の回りのもの全てをラベンダーの香りに染めていて、異常なくらいにラベンダーを愛していた。
「陽、千晶、ただいま」
バレー部から帰ってきた鳳紀が、玄関から声を発した。
「お兄ちゃーん!」
洗濯物を畳むのを手伝っていた千晶はさっさとそれを放って、鳳紀のもとに駆け寄っていく。
「相変わらずだなあ…」
一人呟きながら、苦笑い。
相変わらず。
それは逆を言えば“変われない“のだ。
「陽、仕事」
不意に、声をかけられた。
「…っ」
飾り立てた醜いマザーが背後に立っていた。